エレキベースは楽器と認められていなかった

バークリーの教授の話の中で、「昔、エレキベースが誕生した時、これを専攻楽器に加えてオーディションを始めた。当時は『あんなもの楽器ではない』という風潮が強く、エレキベースが立派な楽器として認められるまでに20年が掛かった。」
という話がありました。

バークリー音楽大学の入学試験は、①専攻楽器のオーディション、②論文、③面接の三位一体型で、これはそのオーディションの際の専攻楽器の話です。

このバークリーの専攻楽器に2019年秋からEDI(Electronic Digital Instrument) が加わりました。これは、AKAI MPCやElektron, ターンテーブルなどが含まれており、こういった「機材」と呼ばれる品々がピアノやギター、トランペットなどの楽器と同等に、音楽大学で学術的にその技巧を追求する事を意味しています。今度の新しい楽器が認められるまでに20年が掛かることは無いでしょう。

かつてTwitterで、エレクトロン大学オクタトラック科という書き込みを見たことがありますが、これが現実のものになったと言っても過言ではありません。

最近、YouTubeで、シンセサイザーやグルーヴボックスを扱う動画で物凄く巧い人が増えてきました。それも若い女性で急増しており、揃っている機材も凄い物ばかりです。

ここで若者にとって大きな障壁、機材が高額であるという事。それ故に、親が持っている環境にある人、つまり生まれた時から機材が「家にある」という環境の人が有利なのは間違いありません。
YouTubeで凄い機材を操る若者達はそのような有利な環境で時間を過ごしている人達か、もしくは、家族の理解があって買ってもらえるか、定かではありませんが、とにかく持っています。

では、その環境にない人は諦めなければならないのかと言うと、決してそんな事はなく、安価な機材でも優秀な物は沢山ありますし、無料アプリGarageband で可能な事は沢山あります。特にGaragebandはアルフィーや電気グルーヴ、greeeenが使っていた事でも有名です。

スマホひとつで作った曲がグラミー賞にノミネートされたこともありました。
iPadひとつあれば他に何も要らないと言い切るプロフェッショナルも居ます。

私が子供の頃にはそんな物すらありませんでした。小学校低学年の頃には、家にあったタンバリンを1人でこっそり割り箸で叩くのが日課でした。タンバリンの下に消しゴムを入れてミュートしたり、更にボール紙を巻いてアタックを硬くしたり、ささやかなチューニングを工夫するのが楽しかったのです。
人間は日々の積み重ねによって形成されるため、毎日何をしているかがその人を決めます。

私は楽器や機材を手に入れてからも、毎日やっている事の基本が小学生の頃から変わっていません。

つまりは「音」そのものが本当に好きである事が最も重要であり、何を使うかが最も重要なのではないのです。音遊びにのめり込む日々が大切であり、それを積み重ねる事がその人の音楽を作っていきます。

目の前にある音が出る物を使って工夫して音遊びを楽しんでいるうちに、新しい楽器を手にする機会も増えます。そのうち生涯の友となる楽器に出会えれば、そしてそれが増えていけば、それはとても幸福な事なのです。

機材が高いと言って嘆くのではなく、目の前にある物を使って音を出し続けるのが幸せで大切な時間であれば、そしてそれを積み重ねる日々を送れば、その人の作る音楽は素晴らしいものになるのは間違いないでしょう。